株式投資と不動産投資

 資産運用の方法には投資信託、株式、FX、暗号資産、不動産、金など色々なものがあります。最近は、ロボアドバイザーというシステムによってさまざまな資産に自動的に分散投資してくれる仕組みもあります。そんな中で、株式投資と不動産投資は王道の資産運用方法として収益を上げるための多くの情報が得やすいものとなっています。同時に詐欺を含む誤った情報も混在し投資家の利益を損なうものがあるので注意が必要です。株式投資も不動産投資も対象は違うものの似ている側面があります。どちらも留意すべきことを理解して正しい運用が行える目を養う必要がありますので双方の違いを見ていきたいと思います。なお、ここでいう株式投資は上場株式を前提とし、不動産投資はマンションやアパートなど賃貸に出すものを前提としています。

投資資金の違い

 株式投資はそれこそ1万円以下で購入できるものもあります(3月24日現在で42件ほどあります。)
 不動産は全部現金で購入すると1万円以下のものを探すのは困難です。大手不動産サイトの楽待で調べてみると30万円の土地やマンションが見つかります(3月24日現在)

 元本以上の投資をすることを考えた場合、株式投資は信用取引でレバレッジをかけると元本の3倍までの取引が可能ですが値動きを考えると3倍ギリギリのレバレッジは勧められません。
 不動産は一般的には借入をしてレバレッジをかけて物件を購入します。だいたい1000万~1億円程度の物件に対して1割~3割程度の自己資金を入れて購入することが多いです。物件や属性によりフルローン(自己資金なし)ができることもありますが今では稀な例です。

 このように不動産で借入するにしても通常株式投資のほうが不動産投資よりも少額でスタートできるというメリットがあります。

投資環境と流動性の違い

 株式投資は多数の証券会社があり口座開設を依頼して銀行口座から入金すれば自由に売買できます。一般に口座開設に1週間程度かかりますが、その後の売買は平日9:00~11:30、12:30~15:00に流動性の高い市場で行えます。また流動性は落ちるものの私設市場(PTS)で8:20~16:00、16:30~23:59での取引も可能です。
 一方不動産投資では、不動産会社は証券会社以上に無数にあるのですが自由に売買できるわけではありません。購入したい物件が売りに出ているとは限りませんし売りに出ている物件もすべての不動産会社で購入できるとは限りません(本来はどの不動産会社でも買えなければいけないのですが、専任の契約を結んだ売主側の不動産会社は自社で買い手も見つければ売りと買いの双方で手数料を得られるため取りついでもらえない可能性があります)。購入に際しては不動産会社へ出向き重要事項説明を受けなければいけません(4月から売買でのIT重説が始まるので今後は少しづつ緩和される方向ですが時間がかかるでしょう)し、契約の手間や手付金を入れたりと非常に面倒です。当然ながら、株式のような自由売買のマーケットは整備されていませんし、1点もので高額なことも多いため購入判断に時間がかかることも多く流動性は極めて低いです。

マイナス方向のリスクの違い

 株式は基本的には売りたいときに売れるのですが、市場が大暴落するなどパニックになった時には売りが買いを大きく上回り売買が成立しないで何日も下落し続けるということもありえます。また、上場企業なので信用したいところですが、粉飾決算などの不正会計などで企業価値が大きく損なわれて株価が下落したり、それがもとで上場廃止になったりすることもあります。上場廃止となると自由に売買できる環境がなくなり流動性がほぼなくなります。会社が倒産したりすると価値は実質ゼロになります。信用取引をしてレバレッジをかけている(自己資金より多くの株を買っている)場合はさらに深刻です。投資額がマイナスになることがありえます。実際にライブドアショックの時には過大な集中した信用取引で破産した人もいたようです。

 不動産投資の場合は、現金で購入できれば土地もあるので価値がゼロになることはまずないです。しかしながら、毎年の固定資産税がかかりますし建物については保険加入や修繕費等の支出(ようは維持コスト)もかかります。株式の維持コストは基本無料であるのと比べると継続的な負担となります。また多くの場合、不動産は借入をして投資しないと満足のいく運用になりにくいため、賃貸の客付がうまくいかないと状況によっては借入金の返済負担が過大になってたちいかなくなり不動産を売却しても返済しきれずに負債だけが残ることも十分あり得ます。 

プラス方向のリスク(リターン)の違い

 リスクとは不確定な事象の影響(投資の数字面では利益や損失の変動幅につながる)のことをいうので必ずしも損失を表しません。しかしながら、リスクは危険という意味ももつのでリスクと言うと多くの人は損失をイメージし、プラス方向のリスクについてはリターンと理解している人が多いです。さて株式投資と不動産投資のリターンはどうでしょうか。実はどちらも銘柄や物件など投資対象によって変わりますが、平均的には年率で6%程度と考えられます。しかしながら株式投資にしても不動産投資にしても努力(や運)によりそのリターンを大きくプラスにできるため魅力があるわけです。

 極論を言えば株式投資の場合、環境次第で現物株式で年利100%(1年で倍になる)も珍しくありませんし1000%近いリターンとなることもあります。年利20%位で運用している方もそこそこいます。一方不動産では年利20%位はありますが、年利100%を超えるような運用ができる方はほぼいないでしょう。

学習面での難易度の違い

 株式投資で安定したリターンを得ることは容易でしょうか?。もちろん動物的感が研ぎ澄まされたトレーダーであれば可能かもしれませんが大事なのは再現性(同じようなことが他の人でもできる)です。再現性という意味では長期的に財を成した方が多いバリュー株投資が有名です。これは企業の本質的価値を計算して割安に放置されている株(下値リスクの低い株)を買い、市場に評価されたところで売るという戦略です。この場合企業分析を必要としますし、多数ある企業からどこに投資するかを絞っていくにはそれなりの時間がかかります。ある程度のレベルになれば息を吸うように企業を評価したり考えたりできますし非常に楽しいものなのですが、勉強が嫌いな人には難しい所があります。

 不動産の場合はどうでしょうか。投資に見合うリターンが得られるか、実際のリターンはどの程度か、空室リスクをどう考えるか、家賃下落の影響はなどなど実は不動産もこれらを調べて計算するためにはそれなりの勉強が必要です。多くの不動産会社はこのシミュレーションを行って顧客に提案してくれますが、自分でシミュレーションできないと、よほど信頼できる業者でないと見通しの甘いシミュレーションで騙されてしまいます。不動産投資の場合、投資とは言え事業としての側面が強いため物件の減価償却費とタックスシールド(税還付)を加味したシミュレーションも行う必要がありますが、この際の還付額は所得によるため人によって異なります。そのためきちんとした税知識と試算能力が必要となります(このあたりも含めたシミュレーションをして下さる不動産会社もありますが多くはざっくり30%還付など決め打ちしていることも多いです。)。

 どちらにしてもきちんとした投資を行うためには異なるタイプの勉強が必要です。似ているのは、どちらも、その企業や不動産の事業として稼ぐ力(PL的視点)と企業や不動産そのものの資産価値(BS的視点)、現金収入(CF的視点)を持つ必要性があるということです。

行動面での難易度の違い

 株式投資は投資する上での特にハードルの高い行動はありません。パソコンあるいはスマホを起動して売買する程度です。注文も前日に入れておくことができるため、常時張り付いていないといけないということもありません。さすがに電子機器が使えないと対面の証券会社で電話して注文という前近代的な取引をする必要が出てくるので少しハードルが高い気はしますが、そのような方は今は少ないでしょう。

 一方不動産投資は、業者をよほど信頼しているならともかく通常はその物件を見て評価することが多いでしょう。Googleストリートビューなどで駅からの経路や周辺の状況の確認などはある程度できますが、物件の基礎部分や壁の状況、部屋の傾きなど実際の物件を見に行かないと判断できないので行動的な難易度(負荷)はそれなりにありサラリーマンなど時間の成約のある人には難しいでしょう。

安定度の違い

 株式の場合、目まぐるしく社会情勢が変わりその影響を受けますし変動も大きいので短期的には不安定であると思います。一方、不動産の場合は株式ほど短期的な影響を受けません。不動産の場合は急激な価格変動などもないため賃貸安定した収益を得られ賃貸が始まると家賃が入ってくるのを待てばよいので比較的安定しています。とはいっても賃貸も空きが出ると次の借り手をつけてもらう必要があり、不動産管理会社に広告費を出したり、修繕をしたり色々収支が不安定になる可能性があります。また自殺などがあったりすると価格を大きく下げないと賃貸が付きにくくなったり、状況によっては特殊清掃が必要になったりとダメージを受けて不安定になる場合もあります。不動産の場合は安定を確保するために、投資する部屋数を増やして多少の空室が出ても影響が小さくなるようにしたり、空室保証を入れたりするということが行われます。

最後に

 株式投資と不動産投資で双方とも勉強が必要だったり、その価値計算面など似ている部分はあるものの、実際に行う場合には全く異なる特性を持っていることがわかったと思います。多くは慣れによって埋まる部分ではあるものの、人それぞれ向き不向きもありますので、株式投資や不動産に限らず知識と経験を増やしながら自分に合った資産運用を進めていくと良いと思います。